ホーリーランド

過去捏造の強イルカ話です
 
 
 
 
何もかも失った。
 
温かく包み込んでくれた柔らかな胸も。
 
頭を撫でる大きな手の平も……。
 
大切なものは全て、金色の化生に奪われた。
 
しかし封印されたという化生に、憎しみも悲しみも感じはしない。――残ったのはただ、虚しさだけ。
 
元凶を憎んだところでどうせ、そんな感情を受け止めてくれる相手ももういない。意味の無いことをしてどうなると、冷めた気持で思う。
 
住む家は残ったが、そこは一人で暮らすには大き過ぎた。可哀想にと差し伸べられる手も、その根にあるのはありふれた同情。鬱陶しい事この上ない。
 
ここには自分の居場所は無い――泣かない子供だと気味悪がられながら、思うのはそればかりだった。
 
だったらいっそ――と、里を出る事にした。
 
あてがあった訳ではない。追い忍がかかるとか、いやまだ忍者にはなっていないから大丈夫だとか、そんな事にまで考えは及ばず。ここにはもう居たくない、だからどこか遠く行くのだと――ただそれだけを思って、家を…里を飛び出した。
 
もしすぐに捕まっていたら、ただの家出で終ったのかもしれない。しかし化生によって滅茶苦茶になった里の復興に人手が足りなくなっていた為か、里を抜けるのは簡単だった。
 
ろくに準備もしないままに里を囲む森を抜け、時には一人で、隊商が通り掛ればそれに潜り込んで旅を続けた。
 
食べ物はあれば食べるだけで、特に意識もせず。
 
別に死にたかったという訳でもないのだが、全てが無意味に感じられて、何かに積極的になる気力というものがわかなかった。
 
――遠くへ行く。
 
目的といえばそれだけで、それすらも特に意味は無い。
 
 
 
長い旅だったようにも思えたし、それ程でもないような気もした。
 
 
しかし気がつくと随分南の方へ来ていたらしく、季節の変化とは関係無く、気温が心持ち高くなっていた。
 
人々の着る服も、涼しく且つ装おう楽しさを追求したとでも云うような、薄手の複雑な作りのものに変わり、まじないめいた民間療法やら、見た事の無い変わった習慣を目にする事も多くなる。
 
相変わらず生きると云う事に何の意味も見出せぬまま、ある日もぐり込んでいた集団と、山賊達の争い事に巻き込まれた。
 
ろくな物を食べていなかったので、真っ先に死ぬに違いないと自分でも思っていたが、子供だった為が見逃され、また一人きりになる。
 
赤く毒々しい花の咲く平原でとうとう行き倒れ、死ぬのだろうとぼんやり思っていた時だ。
 
目を閉じてその時が来るのをぼんやりと待っていたのに、尖った物で頬をつつかれ次には無理矢理叩き起こされた。
 
目を開くとそこには蜂蜜色の肌をした、自分より少しだけ年上のように思われる少女が、覆い被さる様にしてこちらをのぞきこんでいた。艶のある真っ直ぐな黒髪が眩しい日差しを遮り、その表情が霞んだ目にもしっかりと写る。
 
「生きてるな」
 
少女は嬉しそうに言った。
 
興味深げな瞳は幼さに似合わず知的ですらあったが、そこには面白い玩具でも見つけたような、どこか悪戯めいた光が瞬いている。
 
「お前はここに落ちてた――だからもう私のものだ」
 
可憐な容貌に似合わぬ、高圧的な言葉遣いだった。
 
「拾ってやる。感謝するがいい」
 
幼い暴君は、出来たばかりの新しい部下に、誇らしげに最初の命令を下す。
 
久しぶりに空腹と疲労を意識しながら、輝く宝石のようなその命令を、取りこぼさぬ様耳をすました。
 
体は結局まともに動いてはくれず、少女もまた手を差し伸べようとすらしなかったが、少女を探しに来た者達の手で、彼らの住む町へと運ばれた。
 
まともな手当てと滋養のある食事、そして清潔で上質な衣服を与えられ、少女の遊び相手という立場を得た。
 
それは時に命がけで、常に波乱に富んだものだったが、同時に特別な意味のある日々でもあった。
 
 
新たな居場所を見つけたと思った。
 
そこに生きる意味をみいだしていた。
 
 
 
――再びそれが失れるなどとは、その頃は思いもせずに……。
 
 
 
 
 
更新日時:
2005/07/29

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Last updated: 2005/8/23